東京フラクタル

忠犬ハッチの毒出しブログ

母・あつこ

母・あつこは平野レミに似ている。
顔だけでなく言動まで。
あそこまで素っ頓狂ではないが
「姉妹ですか?」と聞かれて
「はい、そうです」と答えてもきっと誰も驚かない。

東京の片田舎に二人姉妹の妹として生まれた。
若い頃は相当勉強ができなかったらしい。
何かにつけて「私バカだから〜」と笑っていたが
それは大抵都合のいい言い訳としてよく使われている。
チビで弱くて勉強ができなかった理由を3月生まれのせいにしているが
それも根拠に乏しい言い逃れである。

どのくらい勉強ができなかったかというと
若い頃、男女4人でドライブ中、給油することになり
母・あつこが

「あ、あそこにデッコウあるよデッコウ!」

と言って指をさしたその先にあったのが「出光」で
気になっていた男の子にドン引きされて恋に破れた
というエピソードを教えてくれた。

 

そんなあつこには一つだけ
「作文だけはよく褒められた」と誇れるものがある。
曇りなき眼でみて感じたものを、ストレートに文章にするという特技があるらしい。
主婦になって子育てをするようになってから
どこぞのツテか
東京新聞の日曜版でお金をもらいながらコラムを担当するようになった。
しかしそれも
「毎週記事書くのが面倒だから」
という理由ですぐに辞めてしまった。
もったいない話である。

 

私が中学生のとき、家に遊びに来た友達に
「○○のお母さんって、なんていうか... すごいおもしろいね!」
と言われたことがあるが
それが褒め言葉だったのかけなし言葉だったのかいまだにもってよくわからない。
自分はその家で育っているものだからそれが普通だと思っていたけれど
どうやらよそ様のお母さんとはちょっと異なるらしいということを
そのときはじめて理解した。

 

母・あつこは福祉の仕事に縁があり、保育士やホームヘルパーをしていた。
「手袋はめてじーさんばーさんのウンコほじくるのよ。それで給料が安いんだから!」
とよくこぼしていた。
福祉の仕事は給与が安いのである。
ケアワーカーをしていたときは訪問先のじーさんたちに
「エロガッパのカッパちゃん」「もぐらのモグちゃん」
などと勝手なあだ名をつけていた。
それでも訪問先には人気のヘルパーだったという。
大学教授のお屋敷に入ったときには
「お金があってもあんなに孤独じゃ気の毒だ」と言っていた。
孤独が好きな人もいるだろうに、きっと人恋しい人間なんだと思う。

 

保母をしていた若かりし頃、
このまま出会いのない職場にいても結婚できないと
近所にあったそこそこ大手の職場に潜り込み
見事、九大卒の真面目でウブな青年・くにひこをゲットした。
結婚は教育ママだったくにひこの母に
「大学も出ていないどこぞのアバズレか!」と大反対されたらしい。
あつこの両親もこれには大変心配して結婚を考え直せと反対したという。
しかしそれを押し切って計画的デキ婚にこぎつけたのだから大したものである。
東京での挙式に山口にいたくにひこの母は来なかったという。
和解したのは私が小学3年生になってから
弟と二人ではじめて山口の祖父母宅へ泊まりに行ってからだったと
大きくなってから聞かされた。

「チビで頭が悪かったから、背が高くて頭のいい遺伝子が欲しかったのよ〜。
蜘蛛の巣はって待ち構えていたら、くにひこがひっかかったのよー」

とあっけらかんと笑うものだからなかなかあなどれない女である。

 

そんな熱愛の上での結婚だったためか、あつことくにひこは大変仲がよい。
身長150ちょっとと185以上のデコボココンビである。
飽きもせずによく一緒にいられるねと言ったら
お互い空気のような存在なのだと言う。
今はくにひこの仕事の関係で猫二匹とチワワ一匹と夫婦二人で茨城に住んでいる。
年明けに遊びに行ったら本当に何もない田舎らしく
東京に帰りたい帰りたいと嘆いていた。
子育ても終えてひと段落、あとは悠々自適に暮らすだけ
と思っていたはずが
最近は娘がなかなか嫁に行かないのでヤキモキしているらしい。
子供が好きで保母になったあつこは早く孫が見たいのだそうだ。
いまは孫がいない代わりに猫キチ(猫キチガイ)となって猫を溺愛している。
このまま猫おばさんになって猫10匹とか飼い始められても困るので
早く孫を抱かせてやらねばと思っている。
それがきっと一番の恩返し。
お母さん本当にどうもありがとう
である。

 

 

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